なろうネタが取り上げられる度、話題に挙がるゾット帝国。
この前もまとレーベルがなろう有名ネタ特集で紹介してたわ。
代名詞に親でも殺されたんじゃないかと疑いたくなるほど、同じ単語を何度も繰り返してる文章が特徴的ね。
ミサがオレたちの頭上で呪文を詠唱した声が聞こえたかと思ったら、オレの身体がジャンボシャボン玉に包まれ、ふわりとオレの身体が浮き上がる。
その間に奴らの攻撃がオレのジャンボシャボン玉に当たるが、奴らの攻撃がジャンボシャボン玉に吸収されてゆく。
「ど、どうなってんだ!?」
オレはジャンボシャボン玉の中でバランスを取るのに必死で、ジャンボシャボン玉の中で忙しく回転している。
回転しすぎて気分が悪くなり吐きそうになり、口許を手で押さえる。
逆さま状態で隣のネロを見る。
ネロはジャンボシャボン玉の中でハットを押さえ、胡坐をかいてジャケットのポケットに手を突っ込んでいる。
大型肉食恐竜型ハンターは、小型獣型ハンターに振り向いて大きく口を開けて吠える。
まるで獲物の邪魔するなと言われているようで、攻撃を止めて戸惑う小型獣型ハンター。
小型獣型ハンターは大型肉食恐竜型のハンターに牙を向けて威嚇したり、吠えて威嚇している。
大型肉食恐竜型ハンターはぶるぶると頭を振って小型獣型ハンターを片足で踏み潰す。
大型肉食恐竜型ハンターに踏み潰された小型獣型ハンターは頭を上げて吠え、頭が地面に突く。
小型獣型ハンターの紅い眼が点滅して消え、小型獣型ハンターからばちばちと火花が散っている。
大型肉食恐竜型ハンターがオレに襲い掛かろうとしている小型獣型ハンターを銜えて放り投げ、口の中の砲口が伸びてキャノン砲で小型獣型ハンターを撃つ。
小型獣型ハンターが空中で身体を起こすのも虚しく空中爆発する。
大型肉食恐竜型ハンターは尻尾で小型獣型ハンターを薙ぎ払い、口の中の砲口からキャノン砲で小型獣型ハンターを撃っている。
小型獣型ハンターが大型肉食恐竜型ハンターと戦っている。
ゾッ帝の代名詞と言っても過言ではない大型肉食恐竜型ハンターと小型獣型ハンターの箇所は、『ライト姉妹』でもネタにされてたわ。
ま、 小説初心者にはよくあることね。
繰り返しを避ける方法の一つに、単語の省略や言い換えがあるかしら。
試しにジャンボシャボン玉の箇所を改良してみたわ。
ミサがオレたちの頭上で呪文を詠唱した声が聞こえたかと思ったら、オレの身体がジャンボシャボン玉に包まれ、ふわりとオレの身体が浮き上がる。
その間に奴らの攻撃がオレ(のシャボン玉)に当たるが、奴らの攻撃が虹色の膜に吸収されてゆく。
「ど、どうなってんだ!?」
オレは宙に浮く球体の中でバランスを取るのに必死で、(その中で)忙しく回転している。
回転しすぎて気分が悪くなり吐きそうになり、口許を手で押さえる。
逆さま状態で隣のネロを見る。
ネロは適度に広い空間の中でハットを押さえ、胡坐をかいてジャケットのポケットに手を突っ込んでいる。
赤字以外はそのままよ。
「オレの身体」「奴らの攻撃」は重複したままだし、ネロがジャンボシャボン玉に包まれた描写もないし、まだまだ読みにくいのはご愛嬌。
けれど、最初の文章と比べればリーダビリティは大幅に改善ね。
ところが、どうも現実はその逆らしいの。
多くの日本人は、省略や言い換えをされると文章が理解できなくなるみたい!
庄司智のラノベ編集者NIGHT! SIN 【第4回】で、人工知能にラノベ作家が代替されるんじゃないかってお便りを投稿したわ。
代替可能性はラノベ作家に限らず他の職業でも考えられるわけで、職を奪われないためには、AIが不得意としてるスキルを伸ばしてかなきゃ生き残れないわよね?
それが読解力。
ディープラーニングによるAlphaGoの快進撃は記憶に新しいけど、そんな最新技術をもってしても、文章読解は未だに難しいらしいの。人工知能は文の意味を理解していないから。
なら意味を理解できる(はずの)人間の読解力はどれほどかというと……
次の問題を見てちょうだい。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
問 Alexanderの愛称は( )である。
A Alex
B Alexander
C 男性
D 女性
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
問 セルロースは( )と形が違う。
A デンプン
B アミラーゼ
C グルコース
D 酵素
これらは中高生の読解力を測るために作られた問題よ。
文章構造さえ掴めれば(赤字部分)、どっちも答えがAであると答えられるわ。
肝心の正解率はというと……
この数字を高いと思うか低いと思うかは任せるわ。
誤解を招かないようにいくつか補足しておくと、
だから「Alexの問題は英語で書かれてたからできなかったんだ!」「中高生は適当に答えるに決まってる!」「時間が無かったはず!」なんて反論は無意味よ。
中高生の話はこのへんにしといて、じゃあ大人はどうなのか。
コメント欄を見ての通り、八割以上が*3問題を批判してるわ。
まあアミラーゼの問題に関してはかなり専門的な雰囲気がするし、科学的には他の選択肢も正解っちゃ正解なんでしょうけど……
ヤバいのはAlex問題の批判者。
「中高生は愛称の意味を知らなかった」とか言っておきながら(別に知らなくても文構造から導けるけど)、意味を知ってるはずの大人なのに間違えてるの。
愛称がニックネームって分かってたらA一択でしょ!
どこの世界に「女性」なんて愛称があるのよ!
この誤答に対して
- Alexandraの愛称はサンドラとかサーニャもある!
- 文章が分かりにくい!
- 名前と愛称は違うだろ!
というのが不正解者の主な言い訳ね。
一番上に関しては「選択肢にない」で終わり。「逆が真とは限らない」とか論理に強そうに振る舞おうが、それは他の選択肢を選ぶ理由にはならない。
二番目と三番目は、まとめると「私は言い換えや省略をされると文章構造を考えなくなります」ってのと同じなのよね。
「主語」か「キーワードに一番近い名詞」を探すだけで終わっちゃう。
Alexの問題を、言い換えや省略なしで作り変えるとこうなるわ。
Alexは男性にも女性にも使われる愛称である。Alexは女性の名Alexandraの愛称である。Alexは男性の名Alexanderの愛称でもある。
こうしてくれれば解けたのに。
そう愚痴るのであれば、ゾット帝国を笑えない。
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