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とある王女の書評空間(ラノベレビュー)

二次元世界のエリート美少女による、宇宙一クオリティの高いラノベブログよ!

無償の愛を馬鹿にはできない――『最強の種族が人間だった件 1 エルフ嫁と始める異世界スローライフ』

ラノベレビュー

 

最強の種族が人間だった件1 エルフ嫁と始める異世界スローライフ (ダッシュエックス文庫)

 

 ある日突然、剣と魔法の異世界“アーテルフィア”に召喚された俺。平凡なサラリーマンの俺が、なぜか目の前にいたエルフの美少女・リアに「人間さま」とか呼ばれちゃって、超崇拝されてるんだけど!?なんと俺が召喚された異世界では人間こそが『最古にして最強の種族』だった!この世界では俺の髪の毛一本ですら、規格外の魔力があるらしい。俺の力を巡って争いが起きるのを避けるため、リアと共に安住の地を築くことに!家の地下に温泉を見つけたり、スライムが俺の人間パワーで可愛い幼女になったり、なんでもありの無敵の人間パワーで、俺はストレスフリーの異世界ライフを満喫することを決意するのであった!

 

ブログ最初のラノベレビューはラ研出身の名物作家、柑橘ゆすら先生の最新作よ。

これまで「出席するだけでレベルアップ」「マンガを読むだけでレベルアップ」「ログインボーナスでスキルアップ」「家が魔力スポット」「くじ引きで無双ハーレム」「笑顔で魔力チャージ」と、様々な「○○だけでレベルアップ」やそれに準ずる作品が生まれたなろう小説。
まるでダイエット本ブームをトレースするかのように、誰もが欲しがる安・楽・短(『一行バカ売れ』)を読者に提供し続けたわ。

 

多くの読者を惹きつけた設定である一方で、これらの作品にはまだ欠点があるわ。

それは「条件を満たさなければ強くなれない」こと。

例えば『賢者の教室~出席するだけでレベルアップ』なら、魔法塾に出席しないとレベルが上がらない。上がっても一日一レベルだけ。レベル九九になるには三ヶ月以上待たなきゃいけない。

三ヶ月待つのは我慢すればいいでしょうね。でも、階級の壁はどうかしら?

『マンガを読めるおれが世界最強~嫁達と過ごす気ままな生活』では、魔導書(=マンガ)がものすごく高価な品である世界。だから、上流階級でなければ魔法を身につけられないわ。

「なんだよ、結局生まれが全てじゃん。また文化資本かよ」と、一部の読者は希望を抱けないままでいるかもね。

 

これまでの作品は受動的な読者のニーズを掴めてなかった。
一々出席するのは面倒だし、金持ちでなくとも魔導書読みたいし、ログインボーナスなんて拘束されてるみたいだし、家がなくても魔力溜めたいし、くじ引きのガラガラを何度も回すのは億劫だし、人を笑顔にするのは苦手だし……
「普通に生活してるだけで痩せたいんだよ! 生活習慣変えたくないんだよ!」という願望に答えられてなかったわ。柑橘ゆすら先生はそこに目を付けたの。


本作では人間が「最古にして最強の種族」として知られ、多くの宗教で信仰の対象になる世界が舞台よ。
知識や技術がなくとも、人間であるだけで肯定される環境。異世界版『魔法科高校の劣等生』ね。リアが「流石は主さまです!」連呼しまくってるし。世界が主人公のお膳立てのために存在してるんじゃないかってほど。
身長三メートルの異形をちょこんと押せば壁に激突し、主人公と間接キスをすれば魔力が増え、指の汗を舐めさせれば媚薬効果が。

更には人間の体の一部が「聖遺物」と呼ばれ、戦略兵器級の扱いをされてるわ。
髪の毛を一本食べさせれば病気が治り、肥料にすれば特産品が名のある料理店から注文が殺到するの。この徹底っぷり。

 

「カルトじみて馬鹿げている」なんて声が聞こえてきそうだけど、その馬鹿げた愛――無条件の愛――を受けた経験の有無が、健全な人生を歩めるかを左右するわ。

ダン・ニューハース『不幸にする親』から引用。

 

 私は何がなんでも自分の望みを追求し、親の願いなど無視すればよいと言っているのではありません。それぞれ事情はあるでしょう。しかし、「子供は親の温かい愛情や勇気づけを必要としている」という点ではみな同じです。それが奪われてしまうと、子供は家の中で存在できる場所がありません。この男性(あたし注:親の経営する雑貨店を継いでもらうため、カメラマンの夢を否定された――フィルムを買ってくれなかったし、写真学校への進学も許してくれなかった)は、子供の頃に親から抱きしめられたり温かい言葉をかけてもらったことがなく、愛されていると感じたことは一度もなかったというのです。学校の成績はよかったのですが、親がそれについて言葉をかけてくれたこともほとんどなく、何につけても彼の気持ちをたずねたことはありませんでした。

(中略)

 この男性には常に寂しさがつきまとってる雰囲気がありましたが、その原因は冷たくて暗い家庭にありました。彼はいくら学校でいい成績を取っても、営業マンとしていくら優秀な成績をおさめても、むなしい気持ちは消えることがありません。

 彼は一度結婚していますが、まもなく離婚し、その後も女性と心温まる関係が長く続いたことがありません。幼い頃から家庭で安定した温かさを経験したことがないことが、大きく影響しているのです。彼自身、「もし子供の頃に温かい家庭があったなら、私の人生ももう少し違っていたかもしれない」と言っています。

 

一旦家庭を離れると、そこにあるのは条件付きの愛ばかり。成果を挙げなければ、誰も見向きもしてくれない。

精神的に成長する機会を与えられてこなかった毒親育ちには、あまりにも過酷過ぎる環境だわ。

けれどこれまでの人生で親の温かさに恵まれなくとも、異世界に行けば無償の愛を得られる――『最強の種族が人間だった件』は、悲惨な人生を歩んだ読者に「第二の家庭」を提供してるわけね。

 

この作品は、発売からわずか三日で重版が決定した*1んですって。

人気の背後には、ちゃんとそれなりの理由があるのよ。

 

 

最強の種族が人間だった件1 エルフ嫁と始める異世界スローライフ (ダッシュエックス文庫)
 

  

 

1行バカ売れ (角川新書)

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不幸にする親 人生を奪われる子供 (講談社+α文庫)

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