とある王女の書評空間(ラノベレビュー)

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文化資本貴族しかいない気持ち悪さ――『ネット小説家になろうクロニクル』

ネット小説家になろうクロニクル 1 立志編 (星海社FICTIONS)

 

試合中に大怪我を負い、失意の底にあったサッカー少年・黒木昴はネット小説投稿サイト〈Become the Novelist〉――通称〈ベコノベ〉と出会い、その世界にのめり込んでいく……。やがて数多の投稿作をむさぼり読んだ昴の目には、ふたたび火が灯っていた――僕は、僕の理想の小説を作り上げ、プロの小説家になる!!

友人であり、編集者役を務める良き理解者・夏目優弥と、隠れて漫画家を目指す美少女・音原由那も仲間に加わり、未来への照準は定まった!


創作を志す仲間とともに小説ランキングを駆け上がり、商業デビューを目指せ――!

読めばネット小説の世界がわかる! 小説が書きたくなる!!

 

「自分の常識は他人の非常識」とはよく言ったもので、あたし達は自分と他人をつい同じ存在だと考えちゃうわ 。

なぜ同一視してしまうか。それは分厚い無知のヴェールが差異の認識を阻むから。

 

ビッグデータの時代である今、例えば「日本人 平均年収」でググれば世代・業界・企業別の平均年収を知ることができるわ。

けれども、画面の前にいる「具体的な」人物――チャットの話し相手、リプライを飛ばしてきた人物、今読んでいる小説の書き手――の年収がいくらなのかは普通に生活してても分からないし、知りたくとも情報が乏しい。比べる機会も材料もない。

ましてや「学校生活の様子は?」「両親はどんな性格?」「住んでいる家の広さは?」「余暇は何をしてるの?」なんてプライベートの話題になると、詳細を把握するなんてまず不可能。 

だからこそ、「自分はこうだから、この人もきっと同じだろう」としてしまうのよ。

 

『ネット小説家になろうクロニクル』を執筆した津田先生は、あまりにも文化資本が高過ぎる*1が故に、自分の周囲にいた(であろう)上流階級の人間しか描けない。中流以下を想像できない。

想像できていれば、チューターを「先生」とは呼ばない。それが「普通の」高校生なんだから。

 

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あたしは電撃文庫の『俺を好きなのはお前だけかよ』の著者である駱駝先生も文化資本が相当高いんじゃないかと疑ってて、それはどうしてかって言うと、キャラに「本人由来の、資本の大幅な欠如がない」から*2

『俺を~』はいつかレビューする時に扱うとして、『ネット小説家になろうクロニクル』に関して「本人由来の、資本の大幅な欠如がない」ことを説明するわね。

 

「資本の大幅な欠如がない」はそのまんま。

この作品、登場人物の持つ資本がみんな異様に豊かなのよね。大幅どころか小幅の欠如ですらないわ。

 

  • 主人公の黒木昴は小学校の頃からプロサッカー選手を目指していて、味方がボールを奪うと、まず最初にボールを預けてくれるほど信頼されてた*3の。家族仲は勿論良好で、母親はサッカーで国内留学する昴の代わりに日記を代筆し、父親は何故か現役の大学教授。ザ・上層ノンマニュアル。
  • 相棒の夏目優弥は、教師ウケが悪いながらも何故かスポーツ万能。母子家庭のアパート暮らしで、バイトで家族を支える身であるため経済資本は少ないものの、性格はどこまでも明るいわ。悲壮感ゼロ。
  •  チューターの津瀬明人は、大学生バイト*4とは思えない何故か大人びた言動で、しかも書籍化作家。
  • ヒロインの音原由那は、ストーリー作成能力は壊滅的なものの、絵がとても上手で、何故かタワーマンションの最上階に住んでいる、勉強もいけちゃう何故かイギリス人ハーフのギャル。

 

ね? すごいでしょ?

単に文化資本が高いだけだったら他のラノベにもいるけど、そういうキャラって何かしら「残念」な属性――すなわち大きな欠点――を持ってるじゃない? 例えば『ネトゲ嫁』のマスターだったらぼっちだし、『ボイス坂』の沙絵だったら学歴以外の取り柄がないし。

『ネトクロ』にはそういうキャラがいないのよ。

『君の名は。』を読んで分かった、ラノベと一般文芸の違いの言葉を使えば「社会不適合者っぽさ」がない。津田先生の母校の生徒がそうだったようにね。

 

次は「本人由来」の部分。

「おいおい、昴は怪我によってプロへの夢が絶たれたんだから、文化資本欠如してるじゃん。王女は読解力なさすぎ」なんてアンチは思ってるかもしれないわね。

けど、怪我の原因は相手ディフェンダーであって、昴のトレーニング不足じゃない。昴に落ち度はない。『無職転生』の主人公みたいに「始める意志が弱くて何者にもなれなかった」みたいな構造じゃないわ。

この辺りがよくある俺TUEEEとの相違点ね。

 

 『ネトクロ』を例えるなら、ヌルすぎるRPG

初期装備に伝説の剣だけじゃなく伝説の盾や伝説の鎧や伝説の兜があって、道中で有り余るほど回復アイテムが拾えるゲーム設計。

だから、どれだけ試練が降りかかろうが緊張感がない。何でも揃ってるんだから。

 

(さて、こんな記事を書いておいて、『ネトクロ』のあとがきにあたしの名前は掲載されるのかしら? 発売が楽しみだわ)

  

ネット小説家になろうクロニクル 1 立志編 (星海社FICTIONS)

ネット小説家になろうクロニクル 1 立志編 (星海社FICTIONS)

 

 

 

 

 

*1:津田先生の文化資本がいかに高いかは成功したのは育ちが良かったから――有名ラノベ作家の文化資本を探るに散々書いたから省略。

*2:りゅうおうのおしごと!』もそうだったわね、と書いてて思い出した。

*3:津田先生の実体験っぽい。ナルシスト?

*4:煙草を吸ってるから、大学二年生以上。