地球からあらゆるものが転生してきた異世界。最強クラスの才能を持つ転生者のレイクはモンスターと共に戦う召喚魔装士を目指していた。
しかし、パートナーを得るための儀式にて最弱と名高い種族、スライムの少女スーラを呼び出してしまう。
一度は落胆しかけたレイクだったが、スーラのひたむきな姿を目にして、一緒に強くなることを決意する。
手始めに、多くの禁書が眠るという地下迷宮へと挑む二人。その先には使用者の身を滅ぼすほどの禁術が封印されているらしく――! ?
最強のご主人様と最弱のパートナーが出会い、大冒険の幕が開く! 爽快感あふれるハーレムファンタジー、ここに始動! !
なんと! プロ作家であるkt60先生から直々に依頼を受けたわ!
そんなわけで、今日は『地球丸ごと異世界転生 ~無敵のオレが、最弱だったスライムの子を最強にする~』をレビューするわよ!
プロ作家がラノベ界のスーパーウルトラデラックススペシャルグレートエリートであるこのあたしに依頼するんだから、本当だったらゴルゴ13よろしく依頼料を取りたいけど、kt60先生は生活費一〇〇万円*1でやりくりしてるみたいだから、出世払いってことで今回はタダでしてあげるわ! あたしのノブレス・オブリージュに感謝しなさい!
さて感想なんだけど、結論から言うとプロの作品とは思えない駄作。
まずね、冒頭数十ページを読むまでの過程で地雷臭がプンプンするのよ。
例えば表紙。『星刻の竜騎士』の〆鯖コハダ先生のイラストはいいと思うんだけど、タイトルが安っぽい。デザイナーの想像力を掻き立てるほどの良作じゃない可能性が一気にアップ。
次に口絵。人物名が記載されてないってどういうことよ!
レイクとスーラは表紙にもいるからいいとして、キャロルとエリゼとソリアもちゃんと紹介しなさいよ!
しかも読み進めていくと分かるように、エリゼなんてモノクロイラストに全く出てこないし! ヒロインのパートナーなのに扱いひどすぎぃ!
極めつけはプロローグ。
異世界転生だから『このすば』『シャチになりましたオルカナティブ』みたいに、駄女神や駄天使と会話する定番のイベントを期待してたら……
二十一世紀の半ば。
驚くべき勢いで科学を進化させていた人類は、異世界へのゲートを発見していた。
ゲートはとても小さかった。小指がかろうじて入るか否かといったところだ。
しかし新たなる世界に、人類は興奮していた。
科学者も研究を重ね、ひとつの理論と仮説を見つける。
まず人間は、原子の粒の集合体だ。
だが人は、自我や意識を持っている。
裏を返せば、こう言える。
原子の粒の集合体は、特定の条件を満たすと意識を持つようになる――。
そんな理論を元にして、自我を作る因子を見つけた。
自我の因子を、現地の人形などに憑依させる技術も見つけた。
ノットバーチャルRPGと言われた、ファーミリアオンラインが誕生した。
物語で紡がれるファンタジーそのもののような世界に人々は魅了され、こぞってプレイしたがった。
いやいやいや! こんなSFチックなプロローグいらないわよ!
どうせ文芸書籍サロン板の「異世界転生・転移でイラつく設定・展開を挙げよう」スレに影響されたんでしょうけど、読者が求めてるのは高カロリーなメガマック(おきらく世界観)であって、ヘルシーなサラダ(原理を追求したファンタジー)じゃないのよ!
アンケートをとると必ずヘルシーなラップサンドやサラダがほしいと要望があって商品化したけども売れたためしがない。 ヘルシーなサラダでなくメガマックが売れる。 お客は言うこととやることが違うからお客の話を聞いてはだめ*2。
「ライフルの攻撃値は、一本あたり四〇〇前後(二〇ページ)」「冒険者ポイントは、受けた依頼や納めたアイテムの四乗根*3で溜まる(一五六ページ)」なんかもそうね。
「従来のいい加減なテンプレファンタジーとは違うんだよ!」という雰囲気を醸し出そうとして大ゴケしてる。
そもそも根本的な問題として、上の数値設定といい異世界転生設定といい、本編に全く反映されてないのよね。
異世界転生ものの魅力として、「主人公と読者が近い」ってことがあるわ。
「ほら、小説とかだと、神様的なやつに特典とか貰うじゃん?(『蜘蛛ですが、なにか?』)」「っとこう……『イェェェアアア俺はまだ死ねないぃぃぃぃ!』みたいに死んだ人の方が良いでしょ、そういうのは(『転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい』)」って発言に「あるある!」「そうそう!」って同意したり。
これが異世界主人公のファンタジーだと、よっぽどのコメディでもない限りは、どうしても主人公と読者の価値観にズレが出てきちゃうしね。作中にオタネタ使えないとか、主人公にネットスラング喋らせられないとか。
kt60先生の作品でも、『物理さん』ではラクトの悲惨な家庭環境を描写したからこそ、リアの「ラクトはわたしの何十倍もお母さんといたのに、わたしの一万分の一もお母さんに愛されていなかった」に重みが出るわけで。
ところが『地球丸ごと異世界転生』では、生物無生物問わずありとあらゆる物が転生したのに、主人公のレイク含め誰一人として前世の記憶を思い出すわけでもないし、地球人が登場するわけでもないわ。タイトル詐欺。
まさか「地球からライフル銃が流れ着いた(一九ページ)」「地球の科学者がプランクトンの残忍さを発見(二八二ページ)」程度のことで、「地球丸ごと」なんてタイトルに入れたのかしら?
それとも、左京潤先生の『ダブル・ロール!』を真似ようとして*4失敗した?
どんな理由にせよ、本作は購入してもお金と時間の無駄ね。
『物理さん』や『食べるだけでレベルアップ』みたいな作品を期待してるなら買うべきじゃないわ。
さて、初仕事が酷評になっちゃったけど、これだとkt60先生があたしに愛想つかしちゃう可能性がある*5から、今度時間が空いたら『物理さん』一巻を改めてレビューでもしようかしら。あれは傑作よ。
地球丸ごと異世界転生 ~無敵のオレが、最弱だったスライムの子を最強にする~ (GA文庫)
- 作者: kt60,〆鯖コハダ
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2016/11/12
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る