現代日本から剣と魔法の異世界へと召喚された向田剛志。
どんな大冒険が待っているのかと思えば、実はムコーダは「勇者召喚」に巻き込まれただけの一般人だった!
そんなムコーダの初期ステータスは正規の勇者(3人もいる! )に比べてかなりしょぼい……。
さらにムコーダたちを召喚した王国がうさん臭く、「あ、これ勇者を利用しようとするやつだ」と察して一人城を出るムコーダ。
この異世界でムコーダが唯一頼りにできるのは固有スキル『ネットスーパー』――現代の商品を異世界に取り寄せられるというものだけ。
戦闘には向かないが、うまく使えば生活には困らないかも? と軽く考えていたムコーダだったが――?
実はこのスキルで取り寄せた現代の「食品」を食べるととんでもない効果を発揮してしまうことが発覚!
さらに、異世界の食べ物に釣られてとんでもない連中が集まってきて……!?
「小説家になろう」年間1位のとんでも異世界冒険譚、ついに登場!
あの『とんスキ』こと『とんでもスキルで異世界放浪メシ*1』が書籍化ですって!
重厚な世界観や深みのあるストーリーとは一切無縁なのに年間ランキング一位を獲得し、累計ランキングではコミカライズが好評な『私、能力は平均値でって言ったよね!』や、アニメ化が決定した『異世界食堂』を上回って一〇位にいるのよ!
TSUTAYAランキングでは、『ハリー・ポッターと呪いの子』に次ぐ二位なの! めっちゃ売れてる!
今回のレビューでは、『とんスキ』人気の秘密を徹底分析したわよ!
①スイがかわいい
多くのラノベと違って、『とんスキ』にはメインヒロインがいないわ。
一巻だと、イラスト付きの女性キャラは、たまに出てくる女神のニンリルぐらい。
まあ、ニンリルはニンリルで、女神のくせしてアンパンやコーヒー牛乳に虜になる残念さが魅力的なんだけどね。
ただ、主人公パーティーの一員じゃない(神界にいる)から、食事シーン以外では出てこないのよ。
そんな「メインヒロイン不在」という致命的な欠点をフォローしたのがスイ。
このつぶらな瞳が可愛くない?
あと、フェルに泣かされるスイをムコーダがあやすシーンもいいと思うの!
『む、笑うな。それとスイ、我をおじちゃんなどと呼ぶなと言っておるだろう』
『えー何で? フェルおじちゃんはフェルおじちゃんでしょう?』
『だから呼ぶなと……』
「ブフッ、ま、まぁいいじゃないか。スイはまだ生まれて14日なんだから。それから比べたら、おじちゃんだろう? なぁ、フェルおじちゃん」
『ぐぬぬ、その名で呼ぶな。咬むぞ』
「ハハハ、悪い悪い」
『我がおじちゃんならお主だっておじちゃんだろうが』
「いやいやいや、俺はまだ27歳だぜ。おじちゃんじゃないよ」
『主はあるじなのー』
「ほら、スイもこう言ってるし」
『ぐぬぬぬ。スイ、いいか、我のことはフェルと呼ぶのだ。分かったな』
フェルがグルルと唸りながらスイに向かってそう言う。
『うーフェルおじちゃんはフェルおじちゃんだもん……』
スイはそう言ってブルブル細かく振動しはじめた。
「何やってんだよ、スイのこと泣かすなよな」
俺はスイを抱っこしてよしよしする。
『ウエーン、あるじー』
ブルブルブルブル震えるスイを慰める。
「ほら、泣くな泣くな。スイは強い子だもんな」
『ヴン、ズイづよいこぉ』
「ヴン、ズイづよいこぉ」ですって!
なにこれかわいい! めっちゃマスコットにしたい!
②豊富なオノマトペ
おそらく『とんスキ』が話題になった最大の理由。
『小説家になろう』に投稿されている大人気小説「とんスキ」の文章力が凄いと話題にwwww とか文芸書籍サロン板の作者スレとかで散々ネタにされてるように、オノマトペがめっちゃ多い。そして特徴的。
例えばスイの初登場シーン。
夕食も済んでもうそろそろ寝ようかと俺とフェルの寝床を用意していると、いつの間にかそれが足元にいた。
「うおっ」
ぷるぷるとした半透明のサッカーボール大の物体がゆっくり動いていた。
「……これって、スライムか?」
『そうだな』
(略)
「スライムって攻撃してこないのか?」
『上位種なら攻撃してくることもあるが、その程度のスライムはただ捕食するのみだ。それにその大きさからみるに、まだ生まれて間もないスライムだろう』
なるほど、スライムっていえば雑魚魔物扱いだけど、この世界でもスライムは最底辺の魔物なんだな。
攻撃はしてこないのか? 俺は興味から足元にいたスライムを指で突いてみた。
プルプル。
少しひんやりとしたそれがプルプル震えるさまはゼリーみたいだ。
それが面白くて指でツンツンしてたら、スライムが恐る恐るという感じで俺の指を触手でツンツンしだした。
なんか、かわいいかも。
それにしても随分と人懐っこいスライムだな。
そして本作を一躍有名にした戦闘シーン。
『あるじー、どうしたの?』
「悪いヤツらがいたからフェルおじちゃんが懲らしめてるんだ」
『え、そうなの? スイもやるー』
「そうか? じゃあ、あそことあそこにいつ男の人全員の武器持ってる方の腕に酸弾を当ててくれるか? 酸弾は小さくていいからな。武器を持てないようにしてほしいんだ」
『わかったー』
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ。
「ギャァァァァッ」
「グォーーーーッ」
「ガァァァァァッ」
「ギャーーーーッ」
「ギィヤァァァッ」
下手に凝った文章にしないことで、スイの質感や戦闘のスピード感が分かりやすく描写されてるわ。
「オノマトペを使うことで、言葉の勢いやニュアンスを出しやすくなります」と『超一流の雑談力』にあったけど、まさにその通りね。
欠点
ここまでさんざん褒めてきたけど、Amazonのレビューを見れば分かるように、ぶっちゃけそこまで面白い作品ではないのよね。
原因ははっきりしてて、『戦慄の魔術師と五帝獣』同様に、山場までが遅いのよ。
スイが出てくるのは一八三ページからだし、ビュッビュッし始めるのは二二九ページから。半分以上読み進めないと面白い部分に辿りつけない。
WEB版をほぼそのまま持って来てるけど、読者*2が期待してるのは「どれだけビュッビュッ率が増えるのか」なんだから、もっと擬音密度増やしなさいよ! あとスイの出番をもっと早くする!
知名度で売れまくってる一巻だけど、このままだと二巻以降は失速するわよ!
とんでもスキルで異世界放浪メシ1 豚の生姜焼き×伝説の魔獣 (オーバーラップノベルス)
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