とある王女の書評空間(ラノベレビュー)

二次元世界のエリート美少女による、宇宙一クオリティの高いラノベブログよ!

サラリーマンは脆く、クリエイターは反脆い。だから人は専業作家を目指す。

超久しぶりに復活。

あたしが記事を投稿しないでいる間――下書きは三月にある程度完成させてたけど――に、二人のプロ作家が専業になる宣言(一人は匂わせだけど)をしたみたいね。

 

 

 

馬路まんじ先生は『底辺領主』や『貧乏令嬢』のコミカライズが好調っぽいから専業になってもそれなりの収入は確保できそうな気はするけど、ネコクロ先生はYouTube漫画のシナリオを担当したり『お隣遊び』の続刊が確定しているとは言えコミカライズ作品ゼロだから、正直大丈夫なのかしら……って懸念はある。

 

Twitterや『ボチオタ』を見た感じだとネコクロ先生って結構ITに詳しそうで、おそらく本業では少なく見積もっても四〇〇万~五〇〇万円くらい稼いでるだろうから、専業になるのは相当リスクが高いかもね。

「応援してます!」みたいに肯定的なリプばかりだけど、その裏で「何も安定したサラリーマン生活を捨てて不安定な専業作家にならなくったって……」と思ってるファンだって多分いるんじゃない?

 

実際、専業作家になっても成功するとは限らず、例えば『銀色のスナイパー』でデビューした名もなき多肉先生は専業作家になったことを後悔してるわ。

 

 前職は本当に恵まれていた。

 給料は少ないが、その分人と関わらなくて済み、自由な時間が多かった。空いた時間は本を読んでいても、書いていても良かった。小説を書くことと読むことが唯一の趣味だった自分に、こんなにぴったりな職場はない。

 他の職場では、勤務中に読書なんかしていたら怒られてしまうだろう。職場のパソコンで小説なんか書いているのが見つかったら、下手したら懲戒免職になってしまうかもしれない。

 やめなければよかったと心の底から後悔している。おそらく兼業でも締め切りに間に合ったし、執筆の妨げにはならなかっただろう。

◆第4回ネット小説大賞を受賞した、ある書籍化作家のエッセイ◆

 

サラリーマンは例え成果を出せてなくても一定の給料が貰えるし、雇用保険や住宅手当といった様々な福利厚生だってある。

専業作家(というか専業クリエイター)になるとはそうした安定を捨てる茨の道なわけだけれど、あたしには馬路まんじ先生やネコクロ先生が専業になりたがる気持ちも理解できるのよね。

 

というのも、サラリーマンは安定しているが故に脆く、クリエイターは不安定であるが故に反脆いから。

逆説的かもしれないけど、「安定しているのに脆い」んじゃなくて「安定しているから脆い」ってわけ。

 

「反脆い」というのはナシーム・ニコラス・タレブが『反脆弱性』で提唱した概念よ。

 

 衝撃を利益に変えるものがある。そういうものは、変動性、ランダム性、無秩序、ストレスにさらされると成長・繁栄する。そして冒険、リスク、不確実性を愛する。こういう現象はちまたにあふれているというのに、「脆い」のちょうど逆に当たる単語はない。本書ではそれを「反脆い」または「反脆弱性」(antifragile) と形容しよう。

 

確かに、サラリーマンなら決められた時間出社していれば(会社の業績や上司からの評価で多少変動こそすれど)毎月一定の給料を受け取れる。

だけどこれは裏を返せば、時間や金銭や場所といった労働環境に関して融通が利かない(=環境を向上させたくても難しい・リスクが高い)ということでもあるわ。

「自分の仕事が早く終わったから帰りたい」と思っても早退すれば給料や査定に響くだろうし、「年収が低いから上げてほしい」と思っても大して上がらないだろうし、「満員電車が嫌だから11時出社にしたい」と思ってもその願いは叶わないだろうし。

 

それどころか、「業績が悪いので給料をカットします」「人員が減ったので残業してください」と言われれば従わざるを得ず、給与水準を維持するために給与水準以外の要素がどんどん犠牲になっていっちゃうわ。

 

変化があるからこそ、職人的な仕事には「反脆弱性」がある。小さな変化が起きるたびに、環境から教訓を学び取り、順応すべし、というプレッシャーを受けるのである。

その結果、絶えず適応と変化を繰り返すことになり、結果として「反脆弱性」を手に入れる。

 

つまり、安定した大企業に勤めるサラリーマンの多くは「脆弱(ぜいじゃく)」である。彼らは「予想し得ぬ不幸」に非常に弱い上に、「予想し得ぬ幸運」を利用することもできない。

だから、40、50代になり、突然会社が「リストラします」と宣言したときに、為す術もなくなってしまうのである。

大企業に勤めるサラリーマンは「弱者」ではないが、多くは「脆弱(ぜいじゃく)」だ。 | Books&Apps

 

何よりサラリーマン最大の脆さは、サラリーマンでなくなった瞬間に「金はあるけど他は何もない、ただ孤独なだけの人間」になってしまうこと。

それは誰もが名前を知る有名な企業で働いていたとしても、例外じゃない。

 

 キャリア支援、人材育成を仕事にしたいと考えて起業した私は、当初、リクルート在籍時に得た人脈がビジネスのきっかけになるのではないかと考えていました。そのため、これまで名刺交換した人たちの中からこの人はという人をピックアップし、700通ほどのあいさつ状を送りました。そのうち1割くらいからは、すぐに仕事の依頼とまではいかなくても、何かしらの反響はあるだろうと見込んでいたのです。

 

 サラリーマン時代には縁のなかった税理士さんや司法書士さんを探して依頼し、会社を設立。自分なりに事業計画を立てて、その計画が絵にかいた餅にならないためには、まずは顧客や仕事の獲得です。この700通はその大きな一歩につながるはずでした。

 

 ——ゼロ。しかし、私の甘い見通しは見事に裏切られました。反響は「ゼロ」だったのです。

「挨拶状700通に返事ゼロ」退職者が味わう絶望 名刺人脈はまったくアテにならない | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

 

「だったら独立しなければいい」と思うかもしれないけれど、一つの会社しか経験していない人間は年代が上がるにつれ減少傾向になっていて、おそらく多くのサラリーマンがどこかで転職(=一時的にサラリーマンの肩書を失う)を考えることになるわ。

 

2017年1~6月までに新規登録したリクナビNEXTの会員データを年代別に集計したところ、20代では76%が「転職経験なし」という結果となっています。30代になると「転職経験なし」の割合は一気に減少し、半分以上の人が転職を経験。4人に1人は「転職1回」、そして約3割の人が「2回以上の転職」を経験しているという結果になりました。

40代、50代になるとさらに転職経験者は増加します。50代になると66%が転職経験者となり、1社のみの業務経験を持つ人は少数派となっています。

転職回数が多いと不利?年代別の転職回数と採用実態

 

実際、業界にもよるけど、前の会社の人間と付き合うことはほとんどないでしょ?

ライフスタイルが何もかも違ってると思うし。

 

退職したら、元の会社の人たちとの付き合いは、綺麗さっぱりなくなると思っておいたほうが良いです。

特に依願退職の場合はその傾向が強いです。

まあそれでも退職後三ヶ月ぐらいは、退職前に仲の良かった同僚から、飲み会の誘いはあるかもしれません。

でも、その後は本当にパッタリ誘いも無くなります。

そんなはずは無い!と思いますか?

いえいえ。確実に疎遠になりますよ。

退職後、昔の会社の人たちとは確実に疎遠になる理由 | 40代退職のリアル

 

「自分は転職するつもりはない」と会社にしがみついても、時が経てば定年退職(=永続的にサラリーマンの肩書を失う)せざるを得なくなる。

その時、これまで稼いできたお金以外に何が残っているかしら?

 

 中堅広告代理店の企画営業部で部長を務めた晴彦(62歳・仮名)は、昔からものごとを批判的にしか見ることができないひねくれ者だった。小さなことでもネチネチと批判するため、会社で嫌われるだけでなく、家族からも嫌がられていた。

 定年後は再就職先が見つからず、1日の大半をリビングのソファで過ごしていた。ただ、近所に幼稚園があるため、少しでもうるさいと幼稚園や区役所にクレームの電話を入れ、時には幼稚園まで怒鳴り込んだ。

 自宅があるマンションのごみ出しの日はごみ庫に入って、きちんと分別しているかごみ袋を開けてチェックをした。分別できていないごみ袋は、住所が確認できれば玄関先まで持っていった。見かねた妻が注意すると、「マンションのモラルをよくするためだ」と言ってやめることはなかった。

コロナ禍を機に考える「定年後の自分」 62歳元部長が地域で悪態をつき孤立する現実:コロナ禍を機に考える「定年後の自分」(1)(1/2 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン

 

とまあ、サラリーマンである以上どうあがいてもいつか肩書を失ってしまうわけで。

クリエイターは確かに不安定かもしれないけど、不安定だということはそれだけ「変化に強い」ということでもあるわ。

 

仕事が早く終われば遊んでいい。

金額に不満があれば交渉すればいい。

夜型なら午前中はゆっくりしてたっていい。

 

そして、緩いものではあるかもしれないけれど、TwitterYouTubeで同業者やファンと長く繋がっていられる。孤独から解放される。

孤独が健康に及ぼす影響は想像以上よ。

 

 アメリカ・ブリガムヤング大学の研究によると、「社会的なつながりを持つ人は、持たない人に比べて、早期死亡リスクが50%低下する」といいます。この死亡リスクは、1日15本の喫煙に匹敵。

 また、過度の飲酒(アルコール依存症)の2倍、運動不足と肥満の3倍も健康に悪いといえます。

 孤独を感じる人は、正常な人と比べて死亡率が1.3~2.8倍、心疾患が1.3倍、アルツハイマー病のリスクが2.1倍、認知機能の衰えが1.2倍高まります。また、うつ病は2.7倍、自殺念慮が3.9倍と、メンタルに対しても甚大な悪影響を及ぼすのです。

日本人がやりがちな「寿命を縮める」3大悪習慣 | 健康 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース 

 

専業作家になるなんて馬鹿げている――

そうした見方を、そろそろ疑ってみるべきなんじゃないかしら?