とある王女の書評空間(ラノベレビュー)

二次元世界のエリート美少女による、宇宙一クオリティの高いラノベブログよ!

業界暴露本としては超一流、ラノベとしては三流以下のゴミ――『ソシャゲライター クオリアちゃん -恋とシナリオと報酬を-』

 

 

ソシャゲライター クオリアちゃん -恋とシナリオと報酬を- (ダッシュエックス文庫)

 

大人気スマホゲーム『チェインクロニクル』などを手がけるトップシナリオライター・下村健が
シナリオ業界の面白さ(と闇?)を描き出す、ソシャゲライター成り上がり譚! !

都内の脚本科に通う、大学生・松平(まつ たいら)は、
シナリオライターとして活動している先輩・川口久月麗(かわぐち クララ)に惚れていた。
過去の恋愛に対するトラウマから1万を超える作品の名セリフを記憶している平は、
言葉の限りを尽くしてクララに告白。
対する彼女の返答は――
「心に引っかかる言葉ばかりだ。いいセンスをしている! 」
こうして実力を買われた平は、ソーシャルゲームのシナリオ制作に携わることに。
しかし、業界には底知れない闇が溢れていた!
だが辞めるわけにはいかない。大好きな先輩を、幸せにすると決めたのだから――。
熱血創作ラブコメティー、開幕!! 

 

 

下村先生の必死にツイートしてる姿があまりにもかわいそうだったので購入。

「評価高いってことはきっと面白いだろうから、ブログでレビューすれば下村先生もあたしも知名度がこいのぼり……じゃなくてうなぎのぼりでWINWINね!」なんて邪なことを考えたり。 

 

集英社は社運を掛けてるのか、特設サイトでは『ドラゴンクエスト』や『STEINS;GATE』のシナリオライターからのコメントや、総勢一〇人のイラストレーターによる応援イラスト、更にはむらたたいち先生のコミックと、ダッシュエックス文庫史上最大の宣伝っぷり。

ここまでするだけあって、本作を読めばソシャゲ業界の内情を隅々まで知ることができるわ。例えば狂った設定。

 

「絵を見る限り、人懐っこそうな、可愛い子じゃないですか。一人称は……『あだち』?」

「そう。『あたし』でも『あーし』でも『わっち』でもなく『あだち』……東京23区の足立区と同じ『あだち』。『ペルソナ4』の冴えない刑事・足立透と同じ『あだち』だ! 名前ではなく、一人称がなっ!!」

(略)

「……これって、表記ミスじゃないですか? さすがにまともな精神で、一人称を『あだち』にする人なんていませんよ。じゃなきゃ、どこが可愛いと思って――」

まともな精神で作られた設定が送られてこないのが、ソーシャルゲーム制作あるあるだ! 私も目を疑い、すぐに確認してみたが『それで合っている』とメールが返ってきた」

 

 例えば低すぎる相場。

 

「発注が来てから今日までの7日間、私なりに必死に考えてみた……1セリフ80円。全部で800円という、コンビニのバイト代より安いかもしれない報酬だが」

(略)

「……ソシャゲの仕事って、そんなに安いものなんですか?」

 クララの必死さに見合いそうにない金額。それについて、正直に訊ねていた。

「PCゲーム。多くは、18禁のエロゲーと呼ばれるものや家庭用ゲームの影響だ。ガラケーと呼ばれる、スマートフォンが流行る前にあったケータイのゲームが世に出始め、まだ数年……いわゆるソシャゲの歴史は他のゲームに比べ、浅すぎるんだ。だからそれより前からあったPCや家庭用ゲームの報酬相場がそのまま使われた。1KBで1000円という、ソーシャルゲームでは安すぎる金額がな」

「1文字あたり、約2円……だから1セリフ40文字ほどのこの仕事が、80円に」

 

『クオリアちゃん』にこめられた想いによると、作品を通して「そんな現場になってはいけない」という願いを製作者に届けたいみたい。

そうした下村先生の熱い思いが、業界関係者に『クオリアちゃん』が支持されてる理由でしょうね。

 

ただ、ソシャゲライターじゃないあたしにとっては、純粋に『クオリアちゃん』はつまらなかった。マッキンゼー風にポイントを三つ挙げるわ。

  

①シコリティが足りない

煎茶先生はチェンクロのイラストレーターって理由で起用されたんでしょうけど、ぶっちゃけイラストが萌えない。人選の失敗。

むらたたいち先生か、同じチェンクロ繋がりなら竜徹先生に任せるべきだったわね。

 

f:id:ranobeprincess:20170108231144j:plain

f:id:ranobeprincess:20170108231209j:plain

 

あとこれは下村先生の問題だけど、リーヤ(上の画像で袴着てるキャラ)を男にするってありえないでしょ! そこは袴っ娘にして、男オタ共をシコらせなくてどうすんのよ!

「中性的なキャラは実は女子でした」ってラノベの王道でしょ!

ガガガ文庫の『友人キャラは大変ですか?』見習いなさいよ!

  

②ただ奇を衒っただけの設定

驚いたのが、 シナリオ制作の話なのに何故か登場人物がリーヤ以外異能持ちなの。

説明するより、4コマ見た方が早いかしら。

f:id:ranobeprincess:20170108232540j:plain

 

f:id:ranobeprincess:20170108232600j:plain

f:id:ranobeprincess:20170108232621j:plain

f:id:ranobeprincess:20170108232639j:plain

バトルするわけじゃないのにこんな設定にした理由が理解不能

 

③パロディの元ネタを解説するという愚行

悪名高き『放課後バトルフィールド』の手法再び。

プロローグからこれ。あまりにも寒すぎてシラケるわね。

 

俺は死にましぇん! あなたのことが、好きだからっ!!

(略)

「か、家族になろう!?」

「……」

「あなたは死なないっ。俺が守るから!!」

「……」

(略)

俺を…………幸せにしてくださぁぁぁ――――いっ!!

(略)

「『101回目のプロポーズ』に『パルフェ』。『エヴァ』に『バクマン』……だな」

 

クライマックスでも同じ愚行を犯してしまう有様。

 

 目の前にいたのは、驚くほど慈愛に満ちた表情のクララで。

 その手は熱く、コウの左肩を包むようにのせられた。

「生きてる人、いますか?」

 そして放たれたのは、優しく語りかけるような、とある作品の名言。

「『クロスチャンネル』……ですか?」

 答えるコウに、クララはただ笑みを深くし、

「君を、助けに来た」

「……『ひぐらしのなく頃に』でしょうか」

 なにを言っているのだろう?

 コウは不思議な心地で、クララの台詞に言葉を重ねていた。

 対してクララは、愛おしそうに目を細め、

「これが、シュタインズ・ゲートの選択だよ」

 

バッカじゃないの?!

「ここで笑ってね」って合図してるお笑い芸人と同レベルじゃん!

 

同業者からは好評? だから何だって話。

内輪で褒め合うのはただの自己満足でしかないわ。売上が悪くて当然。

一般人をオナニーさせてこそのプロのラノベ作家だってのに。

 

売れない作品には、売れないだけのちゃんとした理由があるのよ。

 

 USJの例で理解してみましょう。多くのアトラクションやイベントを制作していく現場では、担当者達が誇りを持って仕事をしています。全員が「ゲストを喜ばせるために面白いものを作ろう」と思ってやっています。しかしながら「ゲストが本当に喜ぶもの」と「ゲストが喜ぶだろうと作る側が思っているもの」は必ずしも一致しないのです。

 なぜならば、作る側は自然状態では消費者感覚から最も遠ざかる運命にあるからです。テーマパークの様々な仕掛けを考案したり、制作している人々は業界のプロです。プロの作り手は、この業界で経験を積むほどに作り手としての専門的な知識を獲得して玄人になっていきます。それは素人である消費者とは真逆の感覚に進むことを意味しています。

森岡毅『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』)

 

 

ラノベをレーベルで定義する連中は全員アホ。

Q. 生物の定義って何ですか?

A. 「生物リスト」に属している要素を生物と呼んでいます。

Q. どんなものが「生物リスト」に入っているんですか?

A. 具体的にはイヌ、ネコ、ライオン、トラ、…です。

Q. ではウイルスは生物ですか?

A. 無生物です。なぜならば上のリストに入っていないからです。

Q. どうして入ってないんですか?

A. ……

Q. 何が生物を生物たらしめているんですか?

A. …………

 

mizunotoriによると、現在のラノベ定義論には大きく分けて三つの派閥――レーベル派、萌え派、パッケージ派――があるのだとか。

それぞれの立場が具体的にどうなってるかというと、

 

 

らしいわ。パッケージ派だけ簡単に補足しておくと、「文庫書き下ろし作品ならライトノベル」「イラストが付いてればライトノベル」みたいな立場ね。

 

この中でもとりわけレーベル派の人気は強くて、ライトノベルの定義に関する簡単なアンケートですではダントツ一位*1だし、あのラノベクソ天狗もレーベル派(とパッケージ派)に与してるわ。

 

 

なぜここまでレーベル派(やパッケージ派)が支持されるのかというと、「客観性の高さ」が挙げられるでしょうね。

「この作品は電撃文庫から出てるのでラノベ」「この作品は表紙にイラストがないからラノベじゃない」とかね。

だから、主観的な要素が多い定義である「萌え派」は好まれないってこと。wikipediaの記述を引用するわ。

 

ライトノベルとその他の小説の境界は曖昧であり、そもそもはっきりとした定義を持たないことから、「ライトノベルの定義」についてさまざまな説がある。ライトノベルを発行しているレーベルから出ている、ライトノベルは出版側のマーケティングにより創られた「ジャンル」であるため、出版社がその旨宣言した作品、マンガ・萌え絵のイラストレーション、挿絵を多用し、登場人物のキャラクターイメージや世界観設定を予め固定化している、キャラクターを中心として作られている、青少年(あるいは若年層)を読者層に想定して執筆されている、作者が自称する、など、様々な定義が作られたが、いずれも客観的な定義にはなっていない。

 

じゃあレーベル説は定義としてきちんと機能してるかって言うと、実は大きな問題を三つ抱えてるの。それを一つづつ見ていくわよ。

 

①定義がはっきりしない

ラノベライトノベルの略称なのだから、そもそも「ラノベレーベル」という定義自体が循環的で何も説明できてない。

「肉とは『肉屋で売られているもの』である」って定義付けと一緒。

 

あたしを批判するしか脳がないラノベクソ天狗は

 

 

 って相変わらずいちゃもん付けてるけど、じゃあ質問。

ラノベレーベルの定義って何?

 

ライトノベル系レーベル一覧 - Wikipediaに記載されてるレーベル?

ってことはソースはWikipedia? マジで言ってんの?

違うのであればラノベレーベルをどう説明するつもり?

「大体のイメージは共有できてるから大丈夫」って、それだと定義じゃないじゃん!

 

あと、上のリンクではメディアワークス文庫を「非ラノベレーベル」扱いしてるけどさ、「メディアワークス文庫ラノベだろ!」って意見があったらどうするの? 主張の正しさをどうやって決めるの? 永久に平行線じゃない?

 

  

②商業・紙媒体至上主義

レーベルから出るってことは「出版社から」「主に紙媒体で」流通するってことと同義なわけで、そうなると「未書籍化のウェブ小説はラノベでない」「コミケ文学フリマの小説は全部ラノベじゃない」「impress Quickbooksはラノベレーベルではないから、ライトなラノベコンテストという名前はおかしい」ってなるわね。

「商業にあらずんばラノベにあらず」と宣言してるも同然。 

だとしたら、レーベル派は「なろうやカクヨムやエブリスタ掲載作品は、ラノベでなければ一体何なのか?」という疑問にどう答えるのかしら。

一般文芸? キャラノベ? それともWEB小説? コミケや文フリの小説は?

 

また『魔法と夜のウォンテッド!』は一巻が電撃文庫から出版され、二巻(相当分)はカクヨム掲載の未書籍化作品だから、レーベル説に従えば『一巻はラノベだが、二巻はラノベではない』ってことよね。

掲載媒体の違いで正反対の結論が導かれてしまう定義は妥当なのかしら。 

 

この意見に対して「なぜ商業出版に限ってはいけないのか、判然としません」なんて反論があるけど、別に「商業ラノベ」「非商業ラノベ」って分ければいいじゃん。

わざわざ「ラノベであること」と「商業作品であること」を両立不可能にするような定義を採用するメリットがない。

商業だろうと非商業だろうと漫画は漫画じゃん。ラノベも同じ。 

 

③外延的定義であること

レーベル説最大の問題点はこれ。

 

まず知っておいてほしい概念として、定義には「内包的定義」と「外延的定義」の二種類あるわ。

分かりやすく言えば内包的定義が抽象化で、外延的定義が具体例の列挙ね。

実践! 専門知識を教えてみよう:第18回 常識的な概念ほど、きっちり定義を考えなければならない (2/3) から、食品の内包的定義と外延的定義を引用するわ。

 

  • 内包的定義:食品とはすべての飲食物をいう。ただし、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)に規定する医薬品及び医薬部外品は、これを含まない。
  • 外延的定義:食品とは、パン、おにぎり、メロン、スイカ、イチゴ、マグロ、サバ、サンマ、サイダー、リンゴジュース……(以下略)……である。

 

ラノベレーベルとは電撃文庫MF文庫J、……である」と定義してるでしょうから、レーベル派は外延的定義ね。 

ちなみに

 

f:id:ranobeprincess:20170119111949j:plain

 

 とかドヤ顔してるバカがいるけど、「……」の部分は何十もあるレーベルを列挙するのがだるくて省略してるだけだから、ハッキリした中身をお望みならば、あたしじゃなくてレーベル説信奉者に教えてもらいなさい。

 

外延的定義のメリットは、要素が列挙されてて分かりやすいこと。

具体的事物の名を知っていれば、幼稚園児でも理解できる。

 

デメリットは主に三つあって、まず一つは、その要素がどういう理由で属している/いないのか全く分からないこと。

食品の例で言うなら「パン、おにぎり、……」という文面をいくら凝視したところで「ヴィックスは食品なのか?*2」「龍角散ののどすっきり飴は食品なのか?*3」について、外延的定義は何も教えてくれない。 

この事情はラノベについても同じなのに、mizunotoriの記事執筆時(11/09/28)には存在しなかった講談社ラノベ文庫(11/12/02創刊)もオーバーラップ文庫(13/04/25創刊)もモンスター文庫(14/07/30創刊)も、それどころか文庫ですらないMFブックス(13/08/23創刊)もアース・スターノベル(14/12/12創刊)もいつの間にかライトノベル系レーベル一覧に組み込まれてるという不思議。

「アース・スターノベルがラノベレーベルである理由を説明してください」って聞かれたら、レーベル派は*4一体どう答えるのかしら?

 

二つ目のデメリットは、外延的定義では無限に存在する――あるいは有限であっても数が増加し続ける――要素の分類には不向きであること。

生物然り、国語辞典然り、定義が往々にして内包的なのは、定義を修正しなくとも新しい概念に対して適用可能だから。 

言いかえれば、外延的定義は新概念が登場する度に修正を迫られるわ。

 

  

三つ目。外延的定義最大のデメリットは、ラノベの本質を全く説明していない点。

生物の定義を巡る冒頭のやりとりがそうだったように、外延的定義は具体的であるが故に、要素が共通して持っているであろう性質を記述できない。

「何が生物を生物たらしめているのか?」に答えていない定義が無価値なのと同様に、「何がラノベラノベたらしめているのか?」に答えていない定義に存在意義はないわ。

 

じゃあどんな定義ならいいの?

まず大前提として中身に言及する。 

 

ジョン・ケージの「4分33秒」みたいに全て白紙だったり、逆に全て「ああああああああああああ」で構成されてたとして、それをライト「ノベル」にカテゴライズする?

「小説としては実験的でアリ」って読者もいるかもしれないけど、ラノベだって断言できる? できるとしてその根拠は? ラノベレーベルから出ればいい? じゃあラノベレーベル以外で出版されたら非ラノベ? でもそれって『魔法と夜のウォンテッド!』がラノベだったりラノベじゃなかったりする原理と一緒じゃない? 妥当なの?

ってなわけで、レーベル派もパッケージ派も、作品内容に触れてないから論外。

 

その点、あたしが『氷菓』はラノベ? バカなの?に書いた

 

  1. オタク向けコンテンツで、
  2. イラストによって作品の魅力が増すと期待される
  3. 小説

 

って定義なら、循環的じゃないし、同人や電子オンリーの作品だって対象にできるし、何より内包的だし。

 

レーベル派もパッケージ派も、論理を理解できない馬鹿向けの主張でしかないわ。

 

ライトなラノベコンテスト 試し読み作品集 その1 (impress QuickBooks)

ライトなラノベコンテスト 試し読み作品集 その1 (impress QuickBooks)

 

 

 

ライトなラノベコンテスト 試し読み作品集 その2 (impress QuickBooks)

ライトなラノベコンテスト 試し読み作品集 その2 (impress QuickBooks)

 

 

*1:「選択肢が適切か?」って疑問は当然あるだろうけど。

*2:食品じゃない。

*3:食品

*4:パッケージ派もだけど。