Q. 生物の定義って何ですか?
A. 「生物リスト」に属している要素を生物と呼んでいます。
Q. どんなものが「生物リスト」に入っているんですか?
A. 具体的にはイヌ、ネコ、ライオン、トラ、…です。
Q. ではウイルスは生物ですか?
A. 無生物です。なぜならば上のリストに入っていないからです。
Q. どうして入ってないんですか?
A. ……
Q. 何が生物を生物たらしめているんですか?
A. …………
mizunotoriによると、現在のラノベ定義論には大きく分けて三つの派閥――レーベル派、萌え派、パッケージ派――があるのだとか。
それぞれの立場が具体的にどうなってるかというと、
らしいわ。パッケージ派だけ簡単に補足しておくと、「文庫書き下ろし作品ならライトノベル」「イラストが付いてればライトノベル」みたいな立場ね。
この中でもとりわけレーベル派の人気は強くて、ライトノベルの定義に関する簡単なアンケートですではダントツ一位*1だし、あのラノベクソ天狗もレーベル派(とパッケージ派)に与してるわ。
個人的には、レーベルやパッケージ(アニメ絵(不適切な表現だが伝達性を優先)表紙、文庫サイズ、など)によるラノベ定義は、まだしも意見のすり合わせが可能だが、作品の中身(物語内容、表現手法)を基準にしたラノベ認定は、信仰の領域にあると思っている(個人の信仰の範囲内において尊重する)
— キュレーションメディアJC2 (@srpglove) 2016年8月30日
なぜここまでレーベル派(やパッケージ派)が支持されるのかというと、「客観性の高さ」が挙げられるでしょうね。
「この作品は電撃文庫から出てるのでラノベ」「この作品は表紙にイラストがないからラノベじゃない」とかね。
だから、主観的な要素が多い定義である「萌え派」は好まれないってこと。wikipediaの記述を引用するわ。
ライトノベルとその他の小説の境界は曖昧であり、そもそもはっきりとした定義を持たないことから、「ライトノベルの定義」についてさまざまな説がある。ライトノベルを発行しているレーベルから出ている、ライトノベルは出版側のマーケティングにより創られた「ジャンル」であるため、出版社がその旨宣言した作品、マンガ・萌え絵のイラストレーション、挿絵を多用し、登場人物のキャラクターイメージや世界観設定を予め固定化している、キャラクターを中心として作られている、青少年(あるいは若年層)を読者層に想定して執筆されている、作者が自称する、など、様々な定義が作られたが、いずれも客観的な定義にはなっていない。
じゃあレーベル説は定義としてきちんと機能してるかって言うと、実は大きな問題を三つ抱えてるの。それを一つづつ見ていくわよ。
①定義がはっきりしない
ラノベはライトノベルの略称なのだから、そもそも「ラノベレーベル」という定義自体が循環的で何も説明できてない。
「肉とは『肉屋で売られているもの』である」って定義付けと一緒。
あたしを批判するしか脳がないラノベクソ天狗は
まず例えがヘンだけどそれを抜きにしても、一般的に「少年漫画」は「少年漫画誌に掲載されている漫画」と定義されてたりするし別にそこまでおかしくもないでしょ
— キュレーションメディアJC2 (@srpglove) 2016年8月1日
>「ラノベレーベルから出版されればラノベ」とか、もろ循環論法じゃん!
>自分を富裕層だと思えば富裕層にカテゴライズされるの?
って相変わらずいちゃもん付けてるけど、じゃあ質問。
ラノベレーベルの定義って何?
ライトノベル系レーベル一覧 - Wikipediaに記載されてるレーベル?
ってことはソースはWikipedia? マジで言ってんの?
違うのであればラノベレーベルをどう説明するつもり?
「大体のイメージは共有できてるから大丈夫」って、それだと定義じゃないじゃん!
あと、上のリンクではメディアワークス文庫を「非ラノベレーベル」扱いしてるけどさ、「メディアワークス文庫はラノベだろ!」って意見があったらどうするの? 主張の正しさをどうやって決めるの? 永久に平行線じゃない?
個人的にラノベ=レーベル論があまり好きでないのは、やはり循環定義的であるのと、あとは大雑把な認識が共有されているかぎりは役に立っても、認識を決定的に違えたときに無力であるからです。
— mizunotori (@mizunotori) 2017年1月5日
②商業・紙媒体至上主義
レーベルから出るってことは「出版社から」「主に紙媒体で」流通するってことと同義なわけで、そうなると「未書籍化のウェブ小説はラノベでない」「コミケや文学フリマの小説は全部ラノベじゃない」「impress Quickbooksはラノベレーベルではないから、ライトなラノベコンテストという名前はおかしい」ってなるわね。
「商業にあらずんばラノベにあらず」と宣言してるも同然。
だとしたら、レーベル派は「なろうやカクヨムやエブリスタ掲載作品は、ラノベでなければ一体何なのか?」という疑問にどう答えるのかしら。
一般文芸? キャラノベ? それともWEB小説? コミケや文フリの小説は?
また『魔法と夜のウォンテッド!』は一巻が電撃文庫から出版され、二巻(相当分)はカクヨム掲載の未書籍化作品だから、レーベル説に従えば『一巻はラノベだが、二巻はラノベではない』ってことよね。
掲載媒体の違いで正反対の結論が導かれてしまう定義は妥当なのかしら。
この意見に対して「なぜ商業出版に限ってはいけないのか、判然としません」なんて反論があるけど、別に「商業ラノベ」「非商業ラノベ」って分ければいいじゃん。
わざわざ「ラノベであること」と「商業作品であること」を両立不可能にするような定義を採用するメリットがない。
商業だろうと非商業だろうと漫画は漫画じゃん。ラノベも同じ。
③外延的定義であること
レーベル説最大の問題点はこれ。
まず知っておいてほしい概念として、定義には「内包的定義」と「外延的定義」の二種類あるわ。
分かりやすく言えば内包的定義が抽象化で、外延的定義が具体例の列挙ね。
実践! 専門知識を教えてみよう:第18回 常識的な概念ほど、きっちり定義を考えなければならない (2/3) から、食品の内包的定義と外延的定義を引用するわ。
- 内包的定義:食品とはすべての飲食物をいう。ただし、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)に規定する医薬品及び医薬部外品は、これを含まない。
- 外延的定義:食品とは、パン、おにぎり、メロン、スイカ、イチゴ、マグロ、サバ、サンマ、サイダー、リンゴジュース……(以下略)……である。
「ラノベレーベルとは電撃文庫、MF文庫J、……である」と定義してるでしょうから、レーベル派は外延的定義ね。
ちなみに
とかドヤ顔してるバカがいるけど、「……」の部分は何十もあるレーベルを列挙するのがだるくて省略してるだけだから、ハッキリした中身をお望みならば、あたしじゃなくてレーベル説信奉者に教えてもらいなさい。
外延的定義のメリットは、要素が列挙されてて分かりやすいこと。
具体的事物の名を知っていれば、幼稚園児でも理解できる。
デメリットは主に三つあって、まず一つは、その要素がどういう理由で属している/いないのか全く分からないこと。
食品の例で言うなら「パン、おにぎり、……」という文面をいくら凝視したところで「ヴィックスは食品なのか?*2」「龍角散ののどすっきり飴は食品なのか?*3」について、外延的定義は何も教えてくれない。
この事情はラノベについても同じなのに、mizunotoriの記事執筆時(11/09/28)には存在しなかった講談社ラノベ文庫(11/12/02創刊)もオーバーラップ文庫(13/04/25創刊)もモンスター文庫(14/07/30創刊)も、それどころか文庫ですらないMFブックス(13/08/23創刊)もアース・スターノベル(14/12/12創刊)もいつの間にかライトノベル系レーベル一覧に組み込まれてるという不思議。
「アース・スターノベルがラノベレーベルである理由を説明してください」って聞かれたら、レーベル派は*4一体どう答えるのかしら?
二つ目のデメリットは、外延的定義では無限に存在する――あるいは有限であっても数が増加し続ける――要素の分類には不向きであること。
生物然り、国語辞典然り、定義が往々にして内包的なのは、定義を修正しなくとも新しい概念に対して適用可能だから。
言いかえれば、外延的定義は新概念が登場する度に修正を迫られるわ。
ラノベは常に創作されていますから、レーベル派の定義に限らず、外延的定義では対応が困難です。これは、もっとも原始的な「個々のラノベ作品を列挙することで定義とする」という手法を考えてみるとよくわかります。1つラノベがこの世に現れるたびに定義を変更しなければならない、というのは変です。
— 安眠練炭 (@aNmiNreNtaN) 2017年1月5日
三つ目。外延的定義最大のデメリットは、ラノベの本質を全く説明していない点。
生物の定義を巡る冒頭のやりとりがそうだったように、外延的定義は具体的であるが故に、要素が共通して持っているであろう性質を記述できない。
「何が生物を生物たらしめているのか?」に答えていない定義が無価値なのと同様に、「何がラノベをラノベたらしめているのか?」に答えていない定義に存在意義はないわ。
じゃあどんな定義ならいいの?
まず大前提として中身に言及する。
ジョン・ケージの「4分33秒」みたいに全て白紙だったり、逆に全て「ああああああああああああ」で構成されてたとして、それをライト「ノベル」にカテゴライズする?
「小説としては実験的でアリ」って読者もいるかもしれないけど、ラノベだって断言できる? できるとしてその根拠は? ラノベレーベルから出ればいい? じゃあラノベレーベル以外で出版されたら非ラノベ? でもそれって『魔法と夜のウォンテッド!』がラノベだったりラノベじゃなかったりする原理と一緒じゃない? 妥当なの?
ってなわけで、レーベル派もパッケージ派も、作品内容に触れてないから論外。
その点、あたしが『氷菓』はラノベ? バカなの?に書いた
- オタク向けコンテンツで、
- イラストによって作品の魅力が増すと期待される
- 小説
って定義なら、循環的じゃないし、同人や電子オンリーの作品だって対象にできるし、何より内包的だし。
レーベル派もパッケージ派も、論理を理解できない馬鹿向けの主張でしかないわ。
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