とある王女の書評空間(ラノベレビュー)

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なぜ、画像生成AIはこれほどまでに嫌われるのか?

ゴールデンウィークに突入。

それに伴い様々なイベントも始まり、ラノベ界隈で有名なイベントを挙げるなら、十三回目の絵師100人展が好天でのスタートを切ったみたいね。

 

 

そんな中、絵師に纏わる話題がもう一つ盛り上がりを見せているわ。

それが、画像生成AIを巡る議論よ。

(この記事を書いてる今も「AI絵師」がTwitterのトレンドに上がってる)

 

 

今、画像生成AIが熱い

デッサンのできる人が少ないために、世間ではそれが神秘的なもの、または魔術めいたものとさえ考えられています。デッサンができる画家は、たいていの場合、この神秘を解明しようとしません。「たとえば肖像画や風景画など、どうやって描けば本物らしく見えるのですか」と聞かれれば、芸術家はこう答えるでしょう。「ちょっと説明しづらいですね。人物や風景をよく見て、見えたものを描いているだけなんです」。これは、一見したところ筋の通ったまともな答えですが、よく考えてみると、まったく描き方の説明になっていません。そのため、デッサンが魔術めいた能力だというイメージは少しも消えないのです。

(ベティ・エドワーズ『決定版 脳の右側で描け』)

 

「才能がない」とか「障害を負っている」とか、そうした「魔力を持たない人間」が絵で何かを表現することや絵で他人を魅了することは、これまでであれば「地道に努力する(けど、多くの場合期待しているような絵を描けずに終わる)」か「ただ諦める」くらいしか選択肢は無かった。

でもそんな絶望的な状況を、AIは一変させてくれた。

 

 

「AIを使わなければ絵が描けなかった人間」からは肯定的な意見が出てくる一方、「AIを使わずとも絵が描けていた人間(要するに絵師)」からは、とにかく評判が悪い。

例えばmimicと呼ばれる、絵柄を学んでイラストを生成するAIサービスのベータ版が去年リリースされたけれど、「自分の絵を勝手に使うな!」「自作発言する奴が出てくるだろ!」といった批判が殺到したわ。

 

 

togetter.com

 

画像生成AIに対する批判の熱量は日に日に増していき、AIに肯定的な態度を見せたりイラスト製作にAIを使ったりしようものならパブリック・エネミー」ならぬ「イラストレーターズ・エネミー」として個人・企業問わず燃やされてしまう。

 

 

 

togetter.com

 

togetter.com

 

ついには、イラストレーターから法規制を訴えられるまでに。

 

www.sankei.com

 

それ、人間の絵師も同じじゃない?

一応補足しておくと、機械学習は現行の著作権法で問題ないことになってるわ。

 

 「日本は機械学習パラダイスだ」。こう提言したのは、早稲田大学法学部教授の上野達弘さんだ。

 なぜなのか。その理由は、日本の著作権法にある。

 日本の著作権法では、「情報解析を行うために著作物を複製すること」が、営利・非営利問わず認められているのだ。世界にもまれな規定だという。

「日本は機械学習パラダイス」 その理由は著作権法にあり - ITmedia NEWS

 

法的に問題ないなら何が問題なのか。

著作権法に違反してるから」「法整備が追い付いてないから」は現実が見えてないから論外として、それ以外の理由を大きく分けると

 

  • データセットに無断転載された画像が使われている(かもしれない)から
  • 自分の絵は学習されたくないのに、その気持ちに配慮してくれないから

 

ってとこかしら。

 

 

しかし今は21世紀です。先進国では個人の権利、もっと言えば「お気持ち」が尊重される時代です。絵描きだけなく、生成AIはありとあらゆる分野の人間や企業と対立することになるでしょう。

画像生成AIの学習について絵描きにアンケートを取った結果と今後の考察

 

……それ、人間の絵師も同じじゃない?

 

ラノベ担当のイラストレーター(荒れるから名前は出さない)が同人誌を割ってたことが判明したけど、「某先生は無断転載データを基に学習したかもしれないから、今後あの人が担当したラノベは買いません!」とはなってないことを考えると、データセット云々は反AIのために後付けされた理由でしょうね。

「理屈と膏薬は何処へでも付く」って言うし。

 

自分のことを棚に上げるAI批判者達

「自分の絵を勝手に使われたくない」という意見にしたって、おそらくあたし含め多くが「お前が言うな」的な感情を抱いたんじゃないかしら。

実際、画像生成AI批判者も権利者に無断で二次創作をしたり、勝手に著作物を使ったり、ガイドラインに違反してたりという有様よ。

 

 

 

 

人間だって学習は無断なわけで、「AIだけ規制できる論理」なんてのは存在しない。

「AIも二次創作も規制」「AIも二次創作も容認」しか選択肢は無いのよ。

 

AI批判の真の理由

ところで、ここまでの議論を読んできて疑問に思った読者もいるんじゃないかしら。

同じAIでもDeepLやChatGPTやAIのべりすとは批判をあまり見ないのに、これがイラストを出力するAIになった途端どうしてここまで大事になるのかと。

 

なぜ、画像生成AIはこれほどまでに嫌われるのか?

なぜ、自分たちの首を絞めかねない論理を振りかざしてまで反対するのか?

 

 

それは「画像生成AIが、絵師の特権を剥奪してしまうから」よ。

 

冒頭で引用したように「絵が描けること」は魔術めいた能力として位置づけられており、それ故「〇〇歳からプロになりました!」といった成り上がりが他の分野と比較して難しく、これまで絵師はヒエラルキーの上位に君臨していたわ。

 

 

さながらドイツの階級社会ね。

 

「上」のステータスを得るためには、いろいろと条件があるのだ。

それをクリアするのはなかなか大変なので、階級別でコミュニティをつくり、結局そのなかで生きる。

 

たとえばオフィスでも、オフィスワーカーと清掃員は明るく挨拶はするが、雑談して仲良くなってホームパーティーに呼んで……なんてことはまず聞かない。

 

同じ空間にいたとしても、同じ仲間にはならないのだ。

同じ街であっても、通りを一本挟んだら、建物の質や行きかう人の服装、言葉遣いやライフスタイルなどが明らかにちがう……なんてこともザラ。

 

「上級」と「そうじゃない人」ではまったくちがい、それぞれ別の空間で生きている。

みなさんご存じだろうか。 ジョブ型における「底辺」が、どんな生き方をしているのかを。 | Books&Apps

 

他の職業であれば一発アウトで取引停止に繋がりかねない行為も、絵師であればヒエラルキーの高さ故にしぶしぶながらも受け入れられてたわ。

 

「仕事は単発だったからいいじゃん。」

「その後も継続して請ける義務はないよね?」

それはもちろん、その通りです。

ただ、キャラクターデザイン、キャラクターを作る仕事を請け負うなら、最後まで責任を持って頂いたい、とも思います。

小さい案件に構っていられない、これ以上描けないのであれば、別の人に頼んでくださいと一言ください。

原稿料が安いなら、上げてくれと言ってください。

納期が厳しいなら相談してください。

そうすれば、企画・制作側は対処できます。

どんなに返信が遅くてもいい。生みの親であるイラストレーターさんが新しく描いてくれるなら、(案件次第ですが)何年でも待ちます。

連絡の無視は1番の悪です。

イラストレーターが作品を殺すこともある

 

仮にも「承認」というステップを一度踏んでいるのだから、ある程度内容にも納期にも納得して受けてくれているものとクライアントは想像する。
しかし、趣味絵(先約の別途案件などではないと思われる)を定期的に更新しているのに、こちらの依頼を後回しにされているのが見えるのは正直相当な不信感が出る。
承認後1か月半くらいまでならばともかく、期限切れギリギリですらそういうことをしているのを見ると、正直怒りが湧く。
仮にも「お仕事・依頼募集中」というようなプロフィールを掲げているクリエイターが、平気な顔で趣味絵を描き続け、最終的に納期期限オーバーでキャンセルしてくると、一体なぜ承認したのか、そもそも金銭的なやり取りが発生するある意味「仕事」であるのにもかかわらず、それを自ら捨て置くのか、という全く理解が及ばない次元に到達する。この行動をフォロワー数万人の絵師が平気で行ってくる。

Skebに70万くらい使った話|アホ|note

 

だって、そう簡単には代替できなかったから。AI登場までは。

 

正直、AI絵は革命だ。イラストを消費する側としては、これはもう革命だとしか言えない。

今まではskebでリクエストをして、決して安くない金額を払い、それでも納品されるかどうかは運しだいだったというのに、今は毎日好みの女の絵を無尽蔵に出力している。

欲しい絵があるなら描ける人にお金を差し出す。相手次第でOKがもらえる。そして待つ。納品されなくても仕方ない。納品締め切り日だというのにソシャゲ生放送で騒ぎアニメ実況をし、作業が進んでいなさそうな様子を見ても決して不満を口にしてはいけない。

そんなskebのルールは絵描きさんサイドに限界まで寄り添ったルールだ。

skebクライアントがAI絵に手を出した結果

 

AIが登場しポーターのファイブフォース分析で言う「買い手の交渉力」「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」「競争企業間の敵対関係」が強くなり、「供給企業の交渉力」が相対的に弱くなったわ。

要するに画像生成AIは「平民が貴族に成り上がれる(あるいは、平民と貴族の区別を無くす)装置」なわけで、だからこそ特権を振りかざせなくなることを恐れて批判が沸き起こったわけ。

 

ranobeprincess.hatenablog.com

 

DeepLやChatGPTやAIのべりすとが画像生成AIほどの批判を受けなかったのは、別に翻訳や文章執筆ができても貴族になれず、なる必要もないと思われてるからよ。

「今までは読み専でしたが書籍化しました!」みたいに生産者と消費者がそこまで分かれてるわけでもなく、「お互い様」の世界だから。

 

最後に予言を一つ。

今回は画像生成AIが批判されたけど、おそらくフェアユースが日本に導入されそうになっても猛反発が起きるんじゃないかしら。

 

 前出の角川氏が指摘するとおり、「アメリカでは公共の福祉が優先され、どんな事業であっても、国民の大半がその恩恵を受けるなら認めるという『フェア・ユース』の社会である。これに対し日本の『オプト・イン方式』は、生活習慣が縛りをつけるビジネス・スキームであり、米国流との『差』は大きい」のである。

 日本も早くフェアユース規定を導入しないと、この差は開くいっぽうである。

(城所岩生『著作権法ソーシャルメディアを殺す』)

 

「公共の福祉」とは「特別扱いしない」ことであり、「旨味だけ得たい、自分達だけ配慮されたい」という要求に反するわ。

「これで二次創作が合法になる!」という喜びよりも、「自分たちのプレミアを掠め取るな!」という怒りの方が多分大きいでしょうね。